♢優しさに包まれて
「はぁい、よく頑張りましたぁ〜♪」
その声はどこかお姉さんぶっていて、けれど優しさに満ちていた。ユウヤの髪を優しく撫でるアリアの手は、どこかくすぐったい。
その様子を見ていたミーシャが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。そして、アリアの真似をするように、ユウヤの頭に小さな手をそっと乗せた。
ミーシャの手はとても小さくて、まるで子猫に撫でられているような感覚だった。
「あはは……♪ ユウくん、子どもみたーいっ」
ミーシャは、くすくすと笑いながら、ユウヤの頭を撫で続ける。
「……いいじゃん。他に人がいないんだしさ……」
ユウヤは照れ隠しのように言い返したが、その声はどこか弱々しく、耳までほんのり赤く染まっていた。
すると、ミーシャがぱっと指を差してきた。
「ユウちゃん、顔があかーい♪」
その無邪気な声に、アリアもつられて笑い出す。
「ほんとだ〜。照れてる照れてる〜♪」
「……うるさいなぁ」
ユウヤは顔をそむけながらも、どこか嬉しそうだった。
森の中に、三人の笑い声が穏やかに響いていた。それは、まるで家族のような、あたたかい時間だった。
♢魔改造キッチンとそれぞれの仕事家に帰ると、アリアが玄関をくぐった瞬間、驚いたような声を上げた。
「ゆ、ユウくん、ユウくんっ! なにこれ!? なんか変だよ……っ!」
その声にユウヤはハッとした。
(ああっ……忘れてた。昨日の夜、調子に乗ってキッチンも魔改造してたんだった……)
ユウヤはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。
「あ……それ、昨日の夜さ。一人で暇だったから……。俺、料理も家事もできないし、手伝えないからさ。アリアに少しでもラクしてもらおうと思って……魔石に魔法を付与して、いろいろ仕込んでみたんだよ」
しどろもどろに説明するユウヤに、アリアは最初こそ目を丸くしていたが、やがてふわりと微笑んだ。
「そっかぁ〜……わぁ……ありがとぉ……♡」
その笑顔は、驚きと感動、そして嬉しさが混ざった、心からのものだった。
ユウヤがキッチンの使い方を説明すると、アリアはすぐに理解し、楽しそうに使い始めた。
「わぁ〜! 水が自動で出る〜! すごーいっ♪ 火も薪じゃないなんて、凄すぎぃ〜!」
アリアは、まるでおもちゃを与えられた子どものように、目を輝かせながらキッチンを見回していた。
「わぁ〜♪ ホントだぁ……でもぉ……」
その隣で、ミーシャは少し不満げな顔をしていた。アリアの興奮とは対照的に、どこか寂しそうな表情を浮かべている。
「あぁ……ミーシャにとっては、思い出のキッチンだったんだよな……。ごめんな」
ユウヤは、ミーシャの気持ちに気づき、そっと謝った。
ミーシャはしばらく黙っていたが、やがて小さく首を振った。
「ううん……そうじゃなくて……私ができる薪拾いの仕事がなくなったぁ〜。水汲みもない〜」
ミーシャは、しょんぼりと肩を落としながら言った。
(え? そっち!? 思い出のキッチンじゃなくて、そっち!? 昨日はあんなに「元に戻して!」って怒ってたのに……?)
ユウヤは、ミーシャの意外すぎる反応に、思わず呆れたように眉を下げた。
「それならさ、食事の片付けと家の掃除があるじゃん?」
ユウヤが提案すると、ミーシャはぱっと顔を明るくして、目を輝かせた。
「うんっ、それやるー! それと、料理のお手伝いもするー!」
「うん、手伝って♪」
アリアも嬉しそうに頷き、ミーシャと顔を見合わせてにっこり笑った。
(……お、これは……抜け出すチャンスじゃないか?)
ユウヤは、ふたりが仲良くキッチンに向かうのを見ながら、そっと思った。
(家には結界が張ってあるし、ふたりとも楽しそうだし。俺がいても見てるだけで手伝えるわけじゃないしな……)
そう判断したユウヤは、すぐに村へ向かう準備を始めた。
「ちょっと買い物と、親に“しばらく帰れない”って伝えてくるなー」
「「はぁーい♪」」
アリアとミーシャは、声をそろえて元気よく返事をした。その声に背中を押されるように、ユウヤは軽やかな足取りで家を後にした。
♢再会と挑発転移で村に戻ると、家の近くの道端に、シャルがぽつんと座り込んでいた。膝を抱え、どこか落ち込んだような表情をしている。
(……あれ? シャル? 前回、あんなに怒って「勝手にすれば!」って言って帰っていったのに……)
ユウヤは、思わず足を止めた。
(うーん……正直、もうシャルはパーティに必要ないんだよな。俺が剣を使えるようになっちゃってるし。まあ、剣術を習ったわけじゃないから振り回してるだけだけど、上級の魔獣も倒せるし、問題ない)
そのとき――
「あっ!! ユウくん!」
シャルが顔を上げ、ぱっと目を見開いた。
(あ。やば……嫌なやつに見つかった……。転移で逃げるって手もあるけど、次に会ったときがもっと面倒になりそうだしな……)
ユウヤは、覚悟を決めた。そして、あえて挑発するような口調で言葉を投げた。
「どうしたんだ? 彼氏と上手くいかなかったのかー?」
(……こうなったら、嫌われよう)
「彼氏って誰よっ!?」
シャルはムッとした表情で立ち上がり、睨みつけてきた。その反応は、どこか図星を突かれたようにも見える。
♢ミーシャの信頼と不安の払拭 ミーシャは目を輝かせながら、双剣を抱きしめるようにして尋ねてくる。「……俺の近くでな? 絶対に離れるなよ。」「はぁい♪」 ミーシャは嬉しそうに頷いたが、その無邪気な笑顔に、ふと胸がざわつく。魔獣が怖くないのか?両親を魔獣に殺されたと聞いていた。普通なら、トラウマになっていてもおかしくないはずだ。「……ミーシャ。魔獣が怖くないのか?」 俺がそう尋ねると、ミーシャはにっこりと笑って答えた。「怖かったよ。でも……ユウちゃんが倒してくれるし、守ってくれるから。だから、もう怖くないの。」 その笑顔は、あまりにもまっすぐで、あまりにも信じきっていて──俺は、何も言えなくなった。♢新たなパーティ編成と秘められた力 食事を終え、討伐の準備を整えて家を出ると、俺たちは裏庭から森へと足を踏み入れた。「そういえば……聞きそびれてたんだけど、この家って?」 シャルが後ろから声をかけてくる。振り返りながら、俺はあっさりと答えた。「あぁ。この家は、俺の家だよ。」「は?えぇ?ユウくんの家なの!?」 シャルは目を丸くして、驚いた声を上げた。(まあ、実際に登録されてるのは俺の名前らしいしな。)「その代わり、魔獣の討伐をするっていう契約付きだけどね。」「それで、魔獣の討伐をしてるんだ〜」 シャルは納得したように頷いたが、ふと表情が曇る。その目元に、どこか寂しげな影が差していた。「どうしたんだ?これから一緒に魔獣の討伐に行くんだぞ?」 俺が問いかけると、シャルは少し照れたように視線を逸らしながら言った。「えっと……その……私も、一緒に住んじゃダメ?」(ん? 家の話をしただけだけど……パーティの拠点ってことでアリアとも話
♢信じる心と新しい服「え? これ……軽すぎるって!」 シャルは剣士だ。剣の重さが戦いにおいてどれほど重要か、よく理解している。「これじゃ……魔物や魔獣に当てられても、倒せないよ?」 不安そうに剣を見つめながら、シャルは眉をひそめる。「ま〜、当てられるなら十分に倒せるようになってるって。午後に討伐に行くから、そこで試してみて? 嫌なら元に戻すしさ。」 俺がそう言うと、シャルはしばらく剣を見つめたあと、小さく頷いた。「……う、うん。わかった……」 口ではそう言っても、彼女の表情にはまだ不安が残っている。けれど、その奥にはほんの少しだけ、期待の色も見えた。「ミーシャ〜。ミーシャにもプレゼント、買ってきたぞ〜」 ユウヤは、もう一人の少女――ミーシャに向かって声をかけた。「わぁっ!え?なになにぃ〜?美味しいのぉー?」 ミーシャは目を輝かせながら、ぱたぱたと駆け寄ってくる。その瞳は期待に満ちていて、まるでお菓子でももらえるかのような勢いだった。「いや、美味しくはないけど……着替えは必要だろ?」 そう言って、ユウヤは包みから新しいワンピースを取り出した。淡いミントグリーンの生地に、小さな白いリボンがあしらわれた、春風のように優しいデザインだ。「わぁ〜……かわいい〜っ!」 ミーシャは目を丸くして、ワンピースを両手でそっと受け取る。そのまま胸にぎゅっと抱きしめると、にっこりと笑ってユウヤを見上げた。「ありがとう、ユウちゃんっ!これ、すっごく気に入った〜!」 その笑顔は、まるで花が咲いたように明るくて、ユウヤの胸にじんわりと温かさが広がった。「わー♪ うん……必要だね〜。かわいい……着てもいい?」「うん。着替えてきなよ。」「うんっ、着替える〜!」 ミーシャは嬉しそうに頷くと、なんのためらいもなくその場でワンピースを脱ぎ始めた。あっという間に、可愛らしいハート柄のパンツ姿になり、にこにこと新しいワンピースに袖を通していく。「……かわいー?」 着替え終わったミーシャがくるりと回って見せると、アリアがアワアワと焦った様子で手を振っていた。「ミ、ミーシャちゃんっ!?ここで着替えちゃダメだよぉ……!」 それでも、ミーシャの姿を見たアリアは、思わず笑顔になっていた。「ミーシャ。ここはリビングなんだから、ちゃんと部屋で着替えないと。」「え〜、
♢村長の反応と家での様子 村長は話を聞き終えると、ゆっくりと頷いた。「その方からも……敵意や害意は感じられませんし……問題はないでしょう。それにしても、午前中の魔獣の討伐は見事でしたな。先ほど、見回りの者から報告を受けました」 そう言いながらも、村長の表情はどこか硬く、ごまかすように討伐の成果を褒めてきた。(……あれ? なんか表情が微妙だな。見回りしてたのか……確認のためか? まあ、魔獣が大量発生してるし、警戒してるのも当然か) ユウヤは、村長の反応に少し引っかかりながらも、挨拶と報告を終えて家へと戻った。「「ただいまぁ〜」」 ユウヤとシャルが声を揃えて帰宅すると、ミーシャがちらちらとシャルの様子を気にしながらも、すぐにユウヤのもとへ駆け寄ってきた。「ユウちゃ〜んっ!」 そのまま勢いよく抱きついてくるミーシャを、ユウヤは笑いながら受け止め、頭を優しく撫でた。「わぁ……可愛い子と住んでるんだね」 シャルは、ミーシャを見て感嘆の声を漏らした。「だろー? 可愛いよな〜」 ユウヤは、ミーシャを抱きかかえたままソファに腰を下ろし、頬をすり寄せてくる彼女を優しく抱きしめた。「っていうか……アリアちゃん、いいの? あそこ、めっちゃイチャイチャしてるけど?」 シャルがジト目でこちらを見ながら、アリアに向かって報告のように言う。ミーシャがユウヤに向かい合って抱きつき、頬ずりしている様子を見てのことだった。(……余計なこと言うなって言ったのに。別にいいけどさ、感じ悪いっての)「え? うん。三人で仲良くしてるよ……って、ミーシャちゃん、甘えすぎだよぉ〜!」 ちょうどそのとき、ミーシャがユウヤの頬にすり寄っていたのを見て、アリアが慌てたように駆け寄ってきた。「うにゃ
「そりゃ……普通、言わないんじゃない? アリアちゃんから聞いた? “私、掃除できるよ”とか、“洗濯できるよ”って」 ユウヤが少し疑うような口調で問いかけると、シャルは呆れたように肩をすくめた。(……そりゃ、そうか。いちいち「私、家事できるよ!」とか「料理得意なんだー!」って言ってくる子の方が、ちょっと引くよな……) ユウヤは、シャルの言葉に妙に納得してしまった。「……そっか。いちいち言わないかぁ」 シャルは、どこか気まずそうに視線を逸らしながらも、真剣な眼差しをこちらに向けていた。 その姿を見ていると、ユウヤの中にあった「突き放すつもりだった」という決意が、少しずつ揺らいでいくのを感じた。(……必死すぎる。なんか、かわいそうになってきたな……) シャルの目は、ただの意地やプライドじゃない。何かを取り戻したいという、真っ直ぐな気持ちが宿っていた。(……どうしよう) ユウヤは、心の中で静かに問いかけていた。突き放すべきか、それとも――もう一度、信じてみるべきか。「じゃあ……約束するなら、いいけど……?」 ユウヤは少し考え込んだあと、慎重に条件を口にした。シャルは身を乗り出すようにして、真剣な目で問い返す。「何を?」「アリアと俺の邪魔をするなよ? それと、俺かアリアが“ダメ”って言ったら、ちゃんと従え。前みたいに“魔物の観察に行きたい”とか“討伐に行きたい”って言っても、止められたら素直に聞くこと。いいな?」 ユウヤの声は、あくまで冷静だったが、その裏には「信じたいけど、もう裏切られたくない」という思いがにじんでいた。(この約束を守ってくれるなら&h
♢拒絶と懇願「はぁ? 仲良くしてた男子がいただろ?」 ユウヤがとぼけるように言うと、シャルはさらに語気を強めた。「だーかーらー! あの時だけ遊んでただけで、あれから会ってないしー!」「その時に上手くいかなかったからって、戻ってこられても困るって!」 ユウヤは、容赦なく言い放った。その声には、怒りというよりも、どこか突き放すような冷たさがあった。 シャルは一瞬、言葉を失ったように口を開いたまま立ち尽くした。「上手くいくとか、意味わかんないしっ! 好きでもないし、ただ……村を彷徨いてて、楽しそうに遊んでたから一緒に遊んだだけだし!」 シャルは顔を真っ赤にして、必死に弁解した。声が少し震えていた。「そうなのか? 一週間以上、一緒にいたよな?」 ユウヤは淡々と問い返す。その声には、どこか冷めた響きがあった。「それは……魔獣の討伐に行くのが怖くて……忘れたかっただけだよ……」(ふぅん……それ、何度も聞いたな。だったら、相談に来てくれてもよかっただろ? まあ、もうどうでもいいけど) ユウヤは、心の中でため息をつきながら、あえて突き放すように言葉を選んだ。「だったら、そのまま忘れて、その男子と遊んでればよかったじゃん?」「ダメなのっ! それじゃダメなのっ! ユウくんと一緒がいいの!」 シャルは、ユウヤの言葉を遮るように叫んだ。その声は、怒りでも悲しみでもなく、ただ必死だった。目には涙がにじみ、唇はかすかに震えている。(はぁ? 俺とじゃなきゃダメって……別に俺がいなくても、前衛なら他のパーティでも引く手あまただろ? 前衛はハードだけど、魔術師希望ばっかりで人手不足だし) ユウヤは、心の中で冷静に分析しながらも、口に出した言葉はきっぱりとしていた。「だから俺にはアリアがいるし、もう遅いって」 その一
♢優しさに包まれて「はぁい、よく頑張りましたぁ〜♪」 その声はどこかお姉さんぶっていて、けれど優しさに満ちていた。ユウヤの髪を優しく撫でるアリアの手は、どこかくすぐったい。 その様子を見ていたミーシャが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。そして、アリアの真似をするように、ユウヤの頭に小さな手をそっと乗せた。 ミーシャの手はとても小さくて、まるで子猫に撫でられているような感覚だった。「あはは……♪ ユウくん、子どもみたーいっ」 ミーシャは、くすくすと笑いながら、ユウヤの頭を撫で続ける。「……いいじゃん。他に人がいないんだしさ……」 ユウヤは照れ隠しのように言い返したが、その声はどこか弱々しく、耳までほんのり赤く染まっていた。 すると、ミーシャがぱっと指を差してきた。「ユウちゃん、顔があかーい♪」 その無邪気な声に、アリアもつられて笑い出す。「ほんとだ〜。照れてる照れてる〜♪」「……うるさいなぁ」 ユウヤは顔をそむけながらも、どこか嬉しそうだった。 森の中に、三人の笑い声が穏やかに響いていた。それは、まるで家族のような、あたたかい時間だった。♢魔改造キッチンとそれぞれの仕事 家に帰ると、アリアが玄関をくぐった瞬間、驚いたような声を上げた。「ゆ、ユウくん、ユウくんっ! なにこれ!? なんか変だよ……っ!」 その声にユウヤはハッとした。(ああっ……忘れてた。昨日の夜、調子に乗ってキッチンも魔改造してたんだった……) ユウヤはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。「あ……それ、昨日の夜さ。一人で暇だったから……。俺、料理も家事もできないし、手伝えないからさ。アリアに少しでもラクして